最近の農業事情は、中国のオリンピックバブルによる鉄骨の高騰、原油の高騰の影響をもろに受け一層のコスト高の状態だ。
肥料も農薬もビニルハウスのビニル、トラクターの燃料、暖房、細かな資材などほぼすべてが石油由来の商品ばかりだ。
農業のような一次産業はコスト分を値段に転嫁できない。基本的には価格は市場任せだからだ。例え価格に転嫁できたとしても、私が作っている花は高値なれば真っ先に切り捨てられる商材でもあり、高値を素直に喜べない現実もあったりする。
結局は、コストをいかに抑えるかロスをいかに減らすかが、収入を増やす決め手になってきている。
さらに、エコファーマーなど環境保全型農業施策の影響もあって、農薬の使用は減らさなければならない風潮にある。
もちろん必要ないものは使う必要はないし、農薬一つ取っても農薬代だけでなく散布の手間などのコストが掛かるのだから、人に言われるまでもなくその方向に向かうのは当然である。
そうして農家全体がレベルアップしていけば、全体の収入もアップすることになる。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
こういった風潮を狙った商売が栄えることになる。
「これを散布すれば、虫が寄りにくくなります」
「これには殺卵効果があります」
「農薬でないから安心です」
「100%天然成分です」
「漢方ですから大丈夫」
こういううたい文句でいろいろな植物保護材が出回ってくる。登録は肥料登録でありながら、営業は農薬としての効能を謳う、農薬取締法違反まがいのところもある。そして、何よりもこういった資材は高価だ。それほど効果的でないのにも関わらず・・・
農薬でないから大丈夫というのは、農薬としてカウントされないと言う意味と農薬でないから安全だという二通りの意味がある。
では、農薬の意味を考えてみよう。農薬取締法の定義では、
「農薬」とは、農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する薗、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。
つまり、農薬とは農産物を保護する目的で使用されるものを指すのであって、化学物質であるとか天然物であるとかは関係ない。まして、農薬登録がないから農薬としてカウントしないというのは本来あるべき姿からはかけ離れていることと言える。
農薬として登録されるには、効果が高く作物に影響がないことはもちろん、人畜、水産物、環境に対する悪影響を与えないよう、毒性試験や残留試験が行われる。そして、農産物ごとに残留基準が定められた上で登録され使用が可能になる。
であるから、農薬でない植物保護材を使うということは、効果が足りないかあるいは人畜、環境に対する基準が全くないものともいえ、環境調和型農業に逆行しているとも言える。天然物だから安全かどうかは、身の回りの天然物を見回してみれば一目瞭然である。
無農薬だから、有機農産物だから安心・安全であるとよく言われる。本当の安全は総合的に判断しなければ絶対に分からない。農薬は基準通り正しく使えば危険なものではない。むしろ、基準のない資材を使うものの安全を疑った方が賢明であるし、なにより安心できない。
われわれ農業者の使命は、環境にできるだけ負荷を与えずに安全な農産物を消費者に届けること、そして農地を未来のために保全することにある。
時代の流れに形だけ乗っていれば、補助金は当たるのかも知れないが、それではもはや農業者ではない。
安全の定義は難しいが、少なくとも、農薬を使わずに、怪しい資材を使うことではその使命は果たせない。
近い将来に訪れると予測される食糧危機。農業者は減少の一途を辿る中、食糧と農地を確保して行くには、農業者ばかりでなく消費者も正しい知識を持った行動が必要である